斜陽

少し前に、サンプルのラルフローレンの綿ニットが戻ってきました。
結論から言うと、これを丸編み機で再現するのは無理みたいです。

正確に言うと、ダブルジャガードだったら再現できる可能性がゼロではないのですが、
私がそれを嫌がったんです。

ダブルジャガードにはダブルジャガードのいいところがあるのですが、
柄を再現するためにシングルジャガードニットの良い表情を諦める必要があります。
どうしてもシングルジャガードでしかもローゲージな雰囲気を出したかったのです。

12Gという、丸編み機ではローゲージな方の編み機で、12色使えるジャガード機を持っている工場さんがあるのですが、
「◯◯ニットの12Gは?」と聞いてみましたら
「あそこは12G担当の後継者の息子が今はよそのアルバイトに行ってるねん。工場は親父さんと親父さんの弟さんが他の機械で工場を回してる。」
とのことでした。
すごく難しい機械なので、後継者である息子さんが専属で機械の仕組みを学びながらやっていたのだそうで、
他の職人さんでは扱いきれないのだそうです。

「息子、嫁も子供もおるのに、工場だけでは食って行かれへんから、仕方なしらしいで。」
「打ち合わせしようにも、平日は夕方6時以降じゃないとあかんとか、土日じゃないとあかんとか、機械回すんも同じ時間帯しか無理やから、正直話にならんねん。」

家業を継ぐと言って工場に入った息子さんが、
ここのところの繊維不況とその上コロナの煽りでのアパレル大不況によって
収入がままならなくて工場を諦めて他所に勤めに出るという話は多く聞きます。

インターシャというジャガードが得意なニッターさんでも、
会社勤めしていた息子さんが「工場を継ぐ」と言って退職して工場に入ってくれたらしいのですが、
このところの不況で「食っていけないから、やっぱり勤めに出るわ。」と言って
サラリーマンになってしまったという話を聞くのは珍しくありません。

工場長はもうおじいちゃんで、あちこち体が悪く
治療をしながらその合間の時間で機械を回すので
生産性が悪く、結果編み工賃が以前に比べたらものすごく値上がりしたなんていう話を聞くことも珍しくありません。

日本が世界に誇れる、生地を作るための知識と技術を継承したいと思っていても
生活がままならない状況だったら別の方法で収入を得ないといけなくなってしまいます。
そうして工場から後継者が離れてしまうと編みや機械に関する知識や技術の伝承がストップしてしまいます。

12年ぐらい前に、とあるニッターさんの職長がご病気で亡くなりました。
社長は2代目で「経営者」ではあっても「職人」ではなかったので
機械の技術などはその職長の知識と腕が頼りでした。

いろんな機械を持っていて、ジャガードもものすごく珍しいものをやってくれる、経済的に豊かなニッターさんでした。

でもその職長がお亡くなりになったことで、
機械やジャガード、データの取り扱いなどができる人がいなくなってしまい、
その工場は
無地の天竺とか、無地のフライスとか、そういう無難な生地しか受ける事ができなくなってしまいました。

今その会社は、社長でも回せるプレーンな機械以外は稼働していません。
広い工場で、たくさんの種類の機械があるのに。

知識や技術を継承するのには、すごくたくさんの時間が必要です。
後継を育てるのはとても生産性が悪くて根気のいる事です。
繊維業界では、
生地を作る現場では、
素晴らしい技術や知識が、すごく安い値段で買い叩かれます。

なのででき得る最高の効率で生産しないと、生活が成り立ちません。
そうすると、
熟練の職人さんは熟練度が増し、
後継者を育てる時間的及び金銭的な余裕がなくなります。

生地を発注する立場の人は、
「値段値段。高いと戦えない。安くないと売れない。」
と呪いのように繰り返します。

世界最高峰を誇る日本の繊維技術ですが、
最近は「昔はできていたはずのことが今はできない」状況に
少しずつなってきています。
そして、この先も少しずつそうなって行くことは容易に想像がつきます。
一番下の大きな画像、一番手前に転がっているのは、編み針です。
多分編み傷が出てしまって、針を交換したんだと思います。
この編み針一つとっても、ものすごく細くて繊細で、精巧にできています。
こういう技術や試行錯誤や苦労一つ一つの上に
我々が着るお洋服を形成する生地が出来上がります。

機械の上に糸が立てられています。
給糸口と言って、その機械によってその数は違います。
古い古い機械だと24口という機械があります。
給糸口の数だけ糸が必要です。

古い24口の機械だったら糸が24本必要です。
そうすると最低ロットは生機24kgです。

10kg反が2反か、
7kg反が3反ぐらいできます。

これが最低ロットです。

で、今時24口の機械なんてあんまりありません。
36口の機械だと、最小経済ロットは36kg、4反ぐらい

48口の機械だと、最小経済ロット48kg、6反ぐらい出来ます。

この調子で行くと、100口を超える機械では、100kgを超ます。
最小経済ロットが。
12〜14反ぐらいはできるでしょうか。

機械によって最小経済ロットは違います。

アパレルさんがいう「量産単価」というのは、
この最小経済ロットを満たした上での「一番安い単価」を、工場は出します。

でも、
展示会をやって、
受注を受けて、
その枚数を用尺で破り返して、

「量産分何mお願いします!」と意気揚々と注文してくる数量、

今は最小経済ロットに届くこと、ありません。(今はせいぜい1〜2反)
となると糸を割る必要があったり、
いろいろ大変なので、
できれば「サンプル反」価格でやってもらいたい、というのが生産の現場の気持ちです。

でもアパレルさんは
「これは量産なので、量産単価でお願いします!m数はきっちり守ってくださいね!多くても引き取らないし、少なくてもダメですからね!」
と言って来ます。

例えば、106口の機械を使う生地、
量産です!
ってなってその発注数量が少なかったら
糸を割っても53kgの糸が必要になります。

53kgの糸を投入すると、糸割りのロスを鑑みても42kgぐらい生機が編み上がります。

それを7kgぐらいの反物にする場合は編みロスを鑑みても5反ぐらい編めちゃいます。
1反27mと換算しても135mぐらい出来てしまいます。
で、
ブランドさんからのオーダーは60mだったと仮定します。

75mが余ります。

それを
生地として余らせるのか、糸のままで余らせるのか、
そこは生地をハンドリングする会社の気持ち次第です。

編み切ってそれをよそに転売しようかな?
と思うテキスタイルメーカーもあれば
余計な経費をかけずに糸のままで処分しちゃおう。
と思うテキスタイルメーカーもあります。

工場的には、編み切ってもらってその分の工賃を請求できたほうがいいに決まっています。

でもそれも希望を発言することはなかなか許されません。

赤字が出たとしても仕事が来れば受けるしかないという、
なんだか精神的な奴隷制度みたいなシステムが出来上がってしまっています。

私も古巣のテキスタイルメーカーでOEMを担当していた頃に、
次期の展示会用の生地の打ち合わせで訪れたブランドさんに
「◯月×日展示会でしたら、絵型と仕様書は××までに提出してください。そこから生地生産の手配をして、パターンを手配して、裁断、縫製、プリント、刺繍などの手配、洗い、仕上げなどの時間を考えたら、ギリギリの締め切りは×月×日になりますのでよろしくお願いします。」
と何度も念を押してお願いしても
実際に絵型と仕様書が上がってくるのは指定したギリギリの締め切りから1ヶ月ぐらい過ぎた頃でした。

その間何度も催促をするのですが、
いつもはぐらかされて、

生地及び製品の発注が来たときには
「展示会は◯月×日なので、それは厳守してください。」と一方的に威圧的に言って来ます。

「◯月×日までにサンプルアップしたいのだったら×月×日までに発注してくださいってお願いしましたよね?それを大幅に遅れてお尻は変えないって、むちゃくちゃすぎませんか?」
と言ってみるのですが、
「展示会までにサンプルが間に合わない場合は、御社に損害賠償請求をすることになりますのでどうぞよろしくお願いします。」的な
かなり威圧的な態度で来られます。

そこから慌てて糸の手配と編み機の手配、そこからのリードタイムをしてもらって先行状や仕上げ工場の手配、生地が仕上がったら裁断、縫製工場の手配、それに付随するプリントや刺繍や洗いや仕上げなどの工場の手配をします。

でもスケジュールっていうのは絵に描いた餅で、
途中で問題が起きたら生産を止めてもらって現地に確認しに行ったり、その上で対策を講じたり、などの手間がたくさんあります。
そうすると予定よりも進行が遅れてしまいがちで、
最終的には縫製工場さんや、洗い、仕上げ工場さんが
「結局バトンの最後の方に皺寄せが来るんだよな!もう本当にいい加減にしてほしいよ!」
と苦言を呈されたりします。

最悪は展示会当日に会場に直接納品に行くようなこともあります。

展示会が終わって量産になった時も
工場さんの勘違いなどで生産開始時期を間違えていて納期に間に合わない、なんてこともたまにありました。
工場さんは「ごめんね!できるだけ早く仕上げるようにするから!」と謝ってくれるのですが、
その状況を説明しても
「納期は絶対なので、遅れたらペナルティで値引きしますからね。」と言われます。

ブランドさんにもよりますが。(笑)。

下手したら上代保障を言ってくるブランドさんもいます。

いや、納品するから。ちょっと遅れるだけで。

ブランドさんから言われたことを伝えて
「納期遅れしたらペナルティー値引きされちゃうみたいなんですけど、痛み分けってしてもらえますかね・・・。なんて相談しようものなら、
「はあ?こちはちゃんと謝ったじゃん。こっちだっていっぱいいっぱいな状況で精一杯頑張っているのに、その上でペナルティーの課金なんてされたらこっちの利益でえへんやん。そんな仕事する意味ないから、次からあんたからの依頼は受けへん。」
なんて臍を曲げられてしまうこともあります。


困ったなあ。と思って社長に相談しても
「協力してくれる工場さんがあってこその仕事やろ。自分でなんとかしろ。」
と突き放されます。


納期当日とかにギリギリで直接納品しに行った時、
納期遅れが確定している製品の担当者から
「ついでにうちの製品も持って来てくれてると思って期待してたのに。なんで持って来てくれへんの?」みたいな風に責め立てられたこともありました。
(私よりもずっと年下の女の子です)
「いやまだ生産中ですので・・・。」
「もうじゃあその製品全部いらんわ。どうしても納品したいっていうんだったらペナルティ半額割引やな。」
なんて言われちゃったり。

編み柄も糸遣いの提案も編み柄を作るのも、仕様も全部私が提案した物だったので、
全数返品されてもWildberryで販売できるな。
と思ったので、
その時は
「遅れる事情は工場さんが説明してくれていますし、
それに関しては以前も説明していてご了承頂いてます。
その上で全量返品するならそれでも構いません。その代わりその製品はこちらで処分させていただきます。」と強気で出ましたら
ペナルティなしに全量引き取ってくれました。

正直、自分で何もものづくりしてへんやん・・・
しかも「こんなイメージのものが作りたい。」というコンセプトマップが
よそのブランドの写真そのまんまを貼り付けただけのもので、
「まんまパクったらあかんやん・・・。」となって
編み組織や糸遣いや柄を私が提案したという・・・。

それでそんなに偉そうに威圧的な態度を取られて
「いやこれイジメやん・・・。」
と理不尽さを禁じ得ませんでした。

そうじゃない紳士的なブランドさんも確かに存在しますが、
かなり少数派なんじゃないかな・・・。と思います。

そんなんだったら
斜陽しますよ。アパレル業界。

今思い出しても結構しんどくなってしまいます。

華やかな業界で憧れの的、的な業界かもしれませんが、
その中身はかなりひどい状況です。

国内産のアパレル業界でも、
いじめは横行というか蔓延というか、
そんなことは日常的に行われています。

かっこよくなんか全然ないです。
かっこつける人はかっこよくないです。

投稿者: wildberryshopblog

Wildberryという生地のネットショップの店主です。

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